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歯列矯正と口呼吸・舌癖の関係|悪習癖を改善して矯正効果を最大化する方法

歯列矯正の成功を左右する「見えない敵」とは

歯列矯正を始めたのに、なかなか思うように歯が動かない。そんな経験はありませんか?

実は、矯正治療の効果を大きく左右する要因として「口呼吸」や「舌癖」といった悪習癖が挙げられます。これらは日常生活の中で無意識に行っている癖であり、多くの方が自覚していないまま歯並びに悪影響を及ぼしているのです。舌は筋肉の塊であり、その力は矯正装置がかける力よりも強いとされています。つまり、どれだけ優れた矯正装置を使用しても、舌で歯を押す癖があれば治療期間が延びたり、最悪の場合は後戻りを起こしたりする可能性があるのです。

口呼吸も同様に、歯並びや顎の成長に深刻な影響を与えます。本来、人間は鼻で呼吸するように設計されていますが、アレルギー性鼻炎や慢性的な鼻づまりなどが原因で口呼吸が習慣化してしまうケースが増えています。口呼吸になると舌が正しい位置に置けず、結果として歯並びの乱れや顔貌の変化を引き起こすことがあります。

この記事では、歯列矯正と口呼吸・舌癖の深い関係性について詳しく解説し、これらの悪習癖を改善することで矯正効果を最大化する具体的な方法をご紹介します。矯正治療を検討されている方、現在治療中の方、そして治療後の後戻りを防ぎたい方にとって、必ず役立つ情報をお届けします。

舌癖(ぜつへき)が歯並びに与える深刻な影響

舌癖とは、舌で上の前歯や下の前歯の裏側を押している、または歯と歯の間から舌を出してしまう無意識の癖のことを指します。

普段の生活の中で、テレビを見ているときや本を読んでいるとき、あなたの舌はどこにありますか?多くの方は、自分の舌の位置を意識したことがないかもしれません。しかし、舌を置く「正しい位置」は確かに存在します。その位置は「スポット」と呼ばれ、上顎の前歯の後ろ、付け根あたりを指します。舌尖がこのスポットに軽く触れ、舌全体が上顎に沿っている状態が理想的です。

舌が正しい位置にないと、さまざまな問題が生じます。舌突出癖がある場合、飲み込むときや話すときに舌が前に出てしまい、上下の前歯を常に押している状態になります。人間は一日に数千回も飲み込む動作を行うため、その度に歯を押す力が加わることで、出っ歯や開咬といった不正咬合を引き起こすのです。開咬とは、奥歯で噛んだ状態でも上下の前歯が噛み合わず隙間が空いてしまう状態を指します。

また、低位舌と呼ばれる状態も問題です。これは舌が正しい位置よりも低い位置にある状態で、常に下の前歯の裏側に舌の先が当たっています。低位舌の方は、舌の側面に歯型の跡がついていることが多く、口がポカンと開いている「ポカン口」になりやすい傾向があります。この状態では、飲み込むときに舌で下の前歯を裏側から押してしまい、受け口や歯と歯の間に隙間ができる空隙歯列を引き起こす可能性があります。

舌癖のセルフチェック方法

自分に舌癖があるかどうか、簡単にチェックできる方法があります。

まず、鏡を見ながら唇を開けた状態で歯を噛んだ状態にします。その状態で唾を飲み込んでみてください。もし歯と歯の隙間から舌がはみ出て見えたり、歯に舌が当たっている感触があったりしたら、舌突出癖の可能性があります。また、チューイングガムを使った方法もあります。ガムを柔らかくなるまで噛み、舌を使って舌の上で丸めます。丸めたガムを舌の先近くまで持っていき、上顎に押し当ててその形を見ます。ガムを丸くできない、前歯に付く、形が縦長になるという場合は、舌の位置が間違っている可能性があります。

その他にも、いつも口がポカンと開いている、歯で舌を噛んでいる、飲み込むときに舌が歯に当たっている、滑舌が悪い、食べるときにクチャクチャと音を立てる、唇を閉じると下顎に梅干しのようなシワができる、といった特徴がある場合は舌癖がある可能性が高いです。

舌癖が矯正治療に与える具体的なリスク

矯正治療中は、歯とその周りの組織が分離した状態で歯が非常に動きやすくなっています。そこに矯正の力をかけて歯を動かしていくわけですが、舌癖を改善しない場合、どれだけ矯正の力で動かしても舌の圧で抑制されたり後戻りを起こしたりしてしまい、なかなか治療が終われないというケースがあります。

さらに深刻なのは、歯が失活してしまうリスクです。失活とは、何らかの原因で歯に栄養が行かなくなり、歯が死んでしまうことを指します。歯が立つための歯槽骨が薄い場合に、舌で歯を押してしまうことで歯が骨から抜け出てしまい失活するというケースがあります。また、無理な力がかかることで歯根吸収が強く起こる可能性もあります。歯根吸収とは、歯の根っこが溶けてしまう現象で、進行すると歯が抜けてしまうこともあります。

そして最も多いのが、矯正終了後の後戻りです。せっかく時間とお金をかけて美しい歯並びを手に入れても、舌癖が残っていると再び歯が動いてしまい、元の状態に戻ってしまうことがあるのです。

口呼吸が引き起こす歯並びと全身への悪影響

口呼吸は、歯並びだけでなく全身の健康にも深刻な影響を及ぼす習慣です。

本来、人間は鼻で呼吸するように設計されています。鼻には空気を温め、湿度を調整し、細菌やウイルスをフィルタリングする機能があります。しかし、アレルギー性鼻炎、花粉症、扁桃腺肥大、アデノイド、蓄膿症などの疾患があると慢性的な鼻づまりが生じ、どうしても口呼吸になってしまいます。また、幼少期の指しゃぶりや舌癖が原因で口呼吸が習慣化することもあります。

口呼吸になると、舌が正しい位置のスポットに置けず、下に下がってしまいます。これを低位舌と呼びます。舌が下がったままだと、飲み込むときに舌を前に突き出すような癖がついてしまい、結果として出っ歯や開咬を引き起こします。さらに、口呼吸をしていると口がポカンと開いているため、口の周りの筋肉も弱ってしまいます。口輪筋などの筋肉が弱くなると、自然と口が開いてしまい、さらに口呼吸が悪化するという悪循環に陥ります。

口呼吸が引き起こす歯科的問題

口呼吸を続けていると、口の中が乾燥し唾液の量が減ってしまいます。唾液には口腔内を洗浄し、細菌の繁殖を抑える重要な役割があります。唾液が減ると、虫歯や歯周病のリスクが高まり、口臭の原因にもなります。また、上顎の成長が抑制されることで、歯が並ぶスペースが不足し、叢生と呼ばれる歯が重なり合った状態になりやすくなります。

さらに、口呼吸は顎の位置や顔の形にも影響を与えます。常に口が開いている状態では、下顎が下がり、顔が縦に長くなる傾向があります。これをアデノイド顔貌と呼び、特徴として口元が突出し、顎が後退した印象を与えます。子どもの頃から口呼吸が続くと、顎の成長パターンが変わり、将来的に外科矯正が必要になるケースもあります。

口呼吸が全身に与える影響

口呼吸の影響は口の中だけにとどまりません。鼻でフィルタリングされずに直接ウイルスや細菌を吸い込むため、風邪をひきやすくなったり、喉の炎症を起こしやすくなったりします。また、睡眠時無呼吸症候群のリスクも高まります。口呼吸によって気道が狭くなり、睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりすることで、十分な睡眠が取れず日中の集中力低下や疲労感につながります。

子どもの場合、口呼吸が続くと脳への酸素供給が不足し、集中力や学習能力に影響を与える可能性も指摘されています。さらに、姿勢の悪化とも関連しており、猫背や頭部前方位姿勢を引き起こすことがあります。

悪習癖を改善する具体的なトレーニング方法

舌癖や口呼吸を改善するには、口腔筋機能療法(MFT)が非常に効果的です。

MFTとは、口周りの筋肉をバランスよく整えるトレーニングで、咀嚼、嚥下、呼吸などに必要な筋肉を鍛えることから始まります。舌癖が原因で歯並びが悪くなっている場合、矯正装置をつけなくてもある程度歯並びが改善することもあります。また、矯正治療とMFTを併用することで、治療後の後戻りがしにくくなるという大きなメリットがあります。

MFTベーシックエクササイズの実践方法

以下のトレーニングを1日2セット行うことで、舌や口周りの筋肉を効果的に鍛えることができます。必要なものは、鏡、箸、水の入ったコップです。

まず、舌を平らにしたり尖らせたりして、舌の形を変える練習をします。次に、箸を口の前に持って、舌の先をまっすぐに尖らせて強く押します。これにより舌の先端の筋肉が鍛えられます。続いて、箸を舌の真ん中に置いて、舌に力を入れて上に持ち上げます。これは舌全体の筋力を高める効果があります。

口を開けて、舌の先でゆっくりと上唇をなぞる運動も効果的です。舌の可動域を広げ、正しい位置に舌を置く感覚を養います。最後に、上を向いて口を大きく開け、ガラガラうがいをして止める練習をします。これは嚥下時の正しい舌の動きを身につけるためのトレーニングです。

口呼吸を改善する鼻呼吸トレーニング

口呼吸を改善するには、まず鼻呼吸を意識的に行う習慣をつけることが重要です。日中、気づいたときに意識的に口を閉じ、鼻で呼吸するよう心がけましょう。最初は違和感があるかもしれませんが、徐々に慣れていきます。

鼻づまりがある場合は、まず耳鼻科で適切な治療を受けることが先決です。アレルギー性鼻炎や蓄膿症などの疾患がある場合、それらを治療しない限り鼻呼吸への移行は難しいでしょう。また、就寝時に口呼吸防止テープを使用することも効果的です。これは口に貼るテープで、物理的に口を閉じることで鼻呼吸を促します。

子どもの場合、早期に介入するほど効果が高いとされています。0歳から正しい哺乳や離乳食を通じて、正しい咀嚼、嚥下、呼吸の習慣を身につけることが理想的です。4歳頃からはプレ矯正(咬合誘導)によって、機能面から顎の健全な成長をサポートすることも可能です。

日常生活で気をつけるべきポイント

トレーニングだけでなく、日常生活の中でも意識すべきポイントがあります。まず、食事の際はしっかりと噛むことを心がけましょう。よく噛むことで口周りの筋肉が鍛えられ、正しい嚥下パターンが身につきます。また、姿勢も重要です。猫背や頭部前方位姿勢は口呼吸を助長するため、背筋を伸ばし、顎を引いた正しい姿勢を保つよう意識しましょう。

頬杖をつく癖や、うつぶせ寝、横向きで寝る習慣も歯並びに悪影響を与えます。これらの癖は顎の位置をずらし、歯並びを乱す原因となるため、できるだけ避けるようにしましょう。指しゃぶりは4〜5歳までに卒業することが望ましいです。それ以降も続いている場合は、開咬や上顎前突を引き起こすリスクが高まります。

矯正治療と悪習癖改善の併用で得られる最大の効果

歯列矯正を成功させるには、装置による歯の移動だけでなく、悪習癖の改善が不可欠です。

矯正治療には様々な方法がありますが、舌癖が強い方には特定の矯正装置が推奨されることがあります。例えば、マウスピース型矯正装置は、装着時に舌の位置を意識しやすく、舌癖の改善にも役立つとされています。また、舌癖を物理的に防ぐための舌癖防止装置を併用するケースもあります。

矯正治療中は、定期的にMFTのトレーニングを行うことで、治療効果を高めることができます。舌や口周りの筋肉のバランスが整うことで、歯が正しい位置に移動しやすくなり、治療期間の短縮にもつながります。また、治療後の保定期間においても、悪習癖が改善されていれば後戻りのリスクが大幅に減少します。

矯正治療の種類と悪習癖への対応

表側矯正は、歯の表面にブラケットを装着しワイヤーで歯を動かす一般的な方法です。複雑なケースにも対応可能で、治療期間が比較的短いというメリットがありますが、見た目が目立つという点がデメリットです。裏側矯正は、歯の裏側に装置を装着するため目立たない方法で、審美性が高い一方、費用が高く装着初期に違和感が強いという特徴があります。

マウスピース矯正は、透明なマウスピースを使用し取り外しが可能な方法です。目立たず、食事や歯磨き時に取り外しができるため、口腔衛生を保ちやすいというメリットがあります。軽度から中等度の不正咬合に対応しますが、自己管理が重要となります。舌癖がある方の場合、マウスピース装着時に舌の位置を意識しやすいため、悪習癖改善のきっかけになることもあります。

保険適用となる矯正治療のケース

矯正治療は原則として自費診療ですが、一部のケースでは健康保険が適用されます。顎変形症と診断された場合、つまり顎を手術しなければ正常な噛み合わせが獲得できない場合は、矯正治療だけでなく手術や入院についても保険が適用されます。また、口唇口蓋裂、ダウン症、6歯以上の先天性部分無歯症などの厚生労働大臣が定める疾患、および前歯3歯以上の永久歯萌出不全に起因した不正咬合も保険診療の対象となります。

矯正治療後の保定とメンテナンス

矯正治療が終了した後も、保定装置(リテーナー)を使用して歯の位置を安定させる期間が必要です。この保定期間中も、悪習癖の改善を継続することが重要です。舌癖や口呼吸が残っていると、せっかく整えた歯並びが再び乱れてしまう可能性があります。保定期間は通常、矯正治療期間と同程度かそれ以上必要とされており、この間に正しい舌の位置や鼻呼吸を習慣化することで、美しい歯並びを長期的に維持することができます。

定期的なメンテナンスも欠かせません。歯科医院での定期検診を受け、歯並びの状態や悪習癖の改善度合いをチェックしてもらいましょう。PMTCと呼ばれるプロによる機械を使った歯のクリーニングも効果的です。しつこい歯石やバイオフィルムを除去し、最後にフッ素塗布で歯を強化することで、矯正後の美しい歯並びを虫歯や歯周病から守ることができます。

まとめ:悪習癖改善で矯正効果を最大化しましょう

歯列矯正の成功には、装置による治療だけでなく、口呼吸や舌癖といった悪習癖の改善が不可欠です。

舌癖は無意識のうちに歯を押し続け、矯正治療の効果を妨げたり後戻りを引き起こしたりします。口呼吸は歯並びだけでなく、虫歯や歯周病のリスクを高め、全身の健康にも悪影響を及ぼします。これらの悪習癖を改善するには、口腔筋機能療法(MFT)などのトレーニングを継続的に行うことが効果的です。

矯正治療を検討されている方は、まず自分に舌癖や口呼吸の習慣がないかセルフチェックしてみましょう。もし該当する場合は、矯正治療と並行して悪習癖の改善に取り組むことで、治療期間の短縮や後戻りの防止につながります。子どもの場合は、早期に介入するほど効果が高く、将来的な歯並びや顔貌の問題を予防することができます。

美しい歯並びは、見た目の美しさだけでなく、しっかりと噛める機能性や口腔衛生の向上、そして自信を持って笑える心の健康にもつながります。悪習癖を改善し、矯正効果を最大化することで、一生涯にわたって健康で美しい歯並びを維持しましょう。

ココロデンタル西麻布では、マウスピース型矯正装置を使用した目立ちにくい矯正治療を提供しています。3DスキャナーとCT画像を使った精密な診査・診断、治療後の最終シミュレーション確認など、治療に入るまでの費用は一切かかりません。口腔内だけでなく全身の健康を第一に考え、患者様一人ひとりに最適な治療計画を提案いたします。歯列矯正や悪習癖の改善についてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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著者情報

ココロデンタル 院長 小林 弘樹 Hiroki Kobayashi

経歴

2010年 日本大学歯学部卒業

2010年 日本大学歯学部附属歯科病院勤務

2011年 大崎シティデンタルクリニック勤務

2015年 麻布シティデンタルクリニック勤務

2017年 ココロデンタル恵比寿

2021年 ココロデンタル西麻布

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